歴史性をもった街並みの修景戦略による地域の再生-二号線問題(ベイエリア・産業地域再生問題)解決のための景観創出型まちづくりに向けて-

要旨

(問題意識)歴史まちづくりには、歴史的な景観の取り入れ方によって、「保存型」「修景型」「創出型」の3種類が存在する。もともと「保存型」が非常に多く行われてきたが、1980年代頃になると、国の補助金等を利用して、伝統的な町なみだけでなく市街地も修理・修景や町づくり事業が行われるようになった。こうした試みにより、行政と市民による協働のまちづくりが本格化してきた。近年でも、「街なみ環境整備事業」や「都市再生整備計画事業」などさまざまな事業によって町なみが更新されてきた。保存型の「伝建地区」のまちづくりについて研究は多いが、修景型の「街なみ環境整備事業」については少ないのが現状である。それにも関わらず今後重要性が増すと考えられる。
伝統的建造物でない一般家屋においては国交省主管補助事業の「街なみ環境整備事業(まち環事業)」を活用した修景事業が実施されている。「街なみ環境整備事業」は住民等による個々の住宅や事業所の修景やまちづくり組織による活動を助成する「街なみ整備助成事業」と、道路や公共施設等の公共空間の整備を行う「街なみ整備事業」の二本柱からなっている。
本研究では、このように、近年重要性が増している「修景型まちづくり」について研究する。修景型でよりサスティナブルな成功をおさめている鹿島市、出雲市、枚方市などを例に、その持続可能なメカニズムを分析した。モータリゼーションや大型商業施設の建設などによって、一度はその街並みが崩壊したものの、景観整備やイベント開催によって復興を果たした枚方市と出雲市、また、酒蔵など歴史的要素を活用したまちづくりによって復興を果たした鹿島市である。
(分析)その結果、修景まちづくりの典型的な例から、各事例に必ず共通する普遍的な問題を考察し、これまであまりまとめられなかった、修景まちづくりの特性を明かにした。
(外的要因による危機意識共有モデル)修景まちづくりを始めるきっかけは、必ずと言って良いほど、その町が危機的状況に陥ったときに発動される。保存型まちづくりの場合は完全な歴史的建造物の対象がある。それを維持しようとすることは自明であるので、外的なショックがなくても良い。それに対し、修景まちづくりの場合は、まちに立派な歴史伝統・イメージはあるが、一部の歴史的なものが残っているだけであったり、全体的な歴史的伝統のみが残っていることが多いので、修景まちづくりが始まるためには、強い外的ショックによるまち並み整備の意欲が高まることが多いと考えられる。ショックは2種類に大別され「交通危機型」が出雲、鹿島、「都市整備危機型」が枚方、富田林、川越にみられた。
(ハードモデル)修景まちづくりの成功例では共通してみられる、ハード整備にかわる制度、プロセス、手法が存在する。必要なものは、(1)景観審議会、(2)まちづくり協議会、(3)まちづくり条例、(4)まちづくり協定、(5)街なみ環境整備事業におけるガイドライン、(6)マッチング活動。修景型まちづくりではなぜガイドラインが必要となるのか?伝建のような保存型まちづくりでは、保存すべき建物があるので明確であるが、修景型の場合は、その地域の伝統的建築のデザインを定義し、周知する必要があり、行政と専門家委員会でガイドラインを策定することは不可欠となる。地域の歴史的成り立ちや、まちの景観的特長を調査、検討、研究し、良好な町並み景観形成のための整備基準を策定する専門家や行政主体のガイドライン策定組織が非常に重要となる。組織においては、建築・まちづくりの専門家は勿論のこと、学識経験者、行政、地域住民、地権者等、多様な主体が連携してガイドライン策定を進めていくことが重要である。
(ハードにかかわる組織論)この段階では必要な組織は、「1)行政委員会」「2)まちづくり協定の為の組織」「3)マッチングの為の組織」の3分類にまとめられる。1)「行政委員会」は各景観審議会である。2)まちづくり協定の為の組織は、枚方はまちづくり協定運営委員会、出雲は神門通り地区まちづくり協定運営委員会、鹿島は肥前浜宿まちづくり協議会である。3)マッチングの為の組織は、枚方は枚方宿地区まちづくり協議会(まちづくり協定運用部会)、出雲は神門通り地区まちづくり協定運営委員会、鹿島はNPO法人肥前浜宿水とまちなみの会である。
(ソフトモデル)修景まちづくりの成功例では非常にイベント等の集客を重視しておこなうことが共通してみられる。そこで、修景戦略におけるソフトな施策をまとめてモデルとする。観光要素論において「見る」「食べる」「買う」「イベント」「休息」が必要不可欠とされ、また、イベントは時間と空間を一致させ、統一テーマでおこなうことが非常に重要である。ハードだけでは人はこない。景観まちづくりは、ただ美しい景観を作るだけではだめで、それを知ってもらうためのイベントを強力にやらなければならない。
(ソフトにかかわる組織論)この段階では必要な組織は、「4)まちづくり団体」「5)イベント毎の実行委員会」の2分類にまとめられる。4)まちづくり団体は、枚方は枚方宿地区まちづくり協議会(各部会)、出雲は神門通りおもてなし協同組合(神門通り甦りの会)、鹿島はNPO法人肥前浜宿水とまちなみの会である。5)イベント毎の実行委員会は、枚方はくらわんか五六市実行委員会、街道菊花祭部会など、出雲は神門通りおもてなし協同組合(神門通り甦りの会)、鹿島はNPO法人肥前浜宿水とまちなみの会、鹿島市ニューツーリズム推進協議会などである。

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