社内ベンチャーを通じたシェアード・バリューの創出−コクヨのCSRに関する事例研究−

要旨

 本研究は、CSRを動機とする新事業が社会に果たす役割(社会価値)と母体組織に与える効果(経済価値)を明らかにすることを目的とする。より具体的には、社内ベンチャーが、障碍者福祉という社会価値と、企業の持続的成長という経済価値の両立(CSV)を目指すプロセスについて仮説構築を行うこととする。そのための方法として本研究は、コクヨ株式会社により設立された2社の特例子会社を対象とする、事例研究を行っている。
 本研究では企業の社会戦略に関する先行研究の考察から仮説として「障碍者就労を促進する特例子会社の設立は社会的(倫理的)責任の活動の範囲にとどまらず、CSVを実現するためのICVとして有効なモデルとなる」という分析フレームを設定した。
 本研究では、異なるドメインを持つ同社の2つの特例子会社の事例を通じて、社会戦略モデルにも複数の類型があることを例示した。その結果、障碍者の法定雇用率達成を目的とする特例子会社が、社会的義務の範疇を越えた労働市場の統合、社会的包摂、及び経済発展への貢献という社会価値と経済価値の両立を実現させる方向性を示している。
 本研究では結論として、「CSR」「CSV」「社内ベンチャー」を構成する要素の分析から、「事業性」と「革新性」によって定義された事業ドメインが「社会性」とのコンセンサスを引き寄せ、社会価値を創造していくという仮説を提示している。
 本研究における理論的インプリケーションとしては、企業の持続的成長を実現させる新事業創造は、「事業性」と「革新性」を重視する母体組織の社会戦略と、ドメイン・コンセンサスを強化するイントラプルナーを生み出す組織の多様性という2つの要素の紐帯が重要であることを示したことにある。

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