観光圏政策の再検討と今後の可能性−地元財源、回遊空間、組織(広域連携)の視点からの分析−

要旨

【1】我が国の観光振興において重要な観光圏制度は第1次(2008年49例)から第2次にかけて転機を迎えたが、本研究では、存続している13の観光圏から持続可能なモデルを構築することを目的とする。観光圏は「滞在促進地区」が存在し、一体性ある範囲にて『連携』での回遊によるシナジー効果が期待される政策として始まったものである。認定プロセスとして、自治体が「観光圏計画」と「整備事業」を策定、協議会が「観光圏整備実施計画」を策定、国土交通大臣に共同で認定申請する。
【2】第2次観光圏への変化がなぜおこったのか?(1)観光庁が公表する観光圏の整備を通じた魅力ある観光地域づくりの方針より、新観光圏の4大基礎条件は「マネジメント体制の構築」「産官学連携」「住民」「ブランド」となった。(2)旅行業法改正:当初は観光圏のみのメリットであった旅行業法も、更なる改正で誰でも地域限定の取扱業務を行うことが可能となり、この点では、観光圏の特殊なメリットは少なくなった。(3)しかし観光圏はDMOにない利点がある。1)DMOが注目されているが、DMOが重視するのは採算性、組織論の問題であり、「空間性」「連携性」の概念が弱い。2)事実、連携が難しいので、1自治体ごとに小さなDMOができている。3)観光圏はなによりも「空間概念」「連携概念」「回遊概念」があり、これが重要である。4)DMO概念とは別に、(DMOに立脚して)観光圏を再生、再度構築すべきでないかという問題意識である。
【3】(時期分析)1)第1次観光圏の地方別の総数では、中部15と圧倒的に多く、これに東北7例、北海道・中四国・九州がすべて6例ずつで続く。2)第2次観光圏の地方別の総数では、北海道・中部・九州が多い。3)観光圏認定の創設期最初の3年間(2008〜2010年)にもっとも活発に申請がおこなわれ、第1期総数の9割以上が最初の3年間に申請されたものである。4)また、第2次観光圏の残留例12例は100%全て、この最初の3年間に申請されたものが続いている。(地域分析)4)もっとも観光圏に熱心なのは中部地方であり、これに続き熱心なのが、北海道と九州である。(時期分析+地域分析)5)以上から、もっとも熱心な残留組は「3地方の初期3年間開設」である。ここから「浜松」「大分」の2事例をとり、さらに近畿で唯一存続している「京都」の3つを事例研究とする、
【4】(分類論)(1)観光資源型:1)第1次観光圏は、自然型18例、歴史・文化型12例、体験型8例で、この3つの観光資源型で38例(72%)に達し典型的パターンである。2)更に第2次観光圏13例は、自然型が8例と圧倒的に代表的で、歴史・文化型2例、体験型2例で、この3つの観光資源型で12例(92%)に達し典型的パターンであることがわかる。3)逆に、第1次観光圏の時から少なく、第2次観光圏では脱落しているのが、食ブランド型と温泉型である。これは、ある地域に集積した観光資源のスポット的な魅力をあじわう観光が中心であり、あるスポット的な地域への滞在型観光であり、そもそも回遊する観光圏の概念にたよらなくともよい概念ともいえる。(2)運営形態:第2次観光圏に移行したのはたった2つの形態、すなわち「プラットフォーム一般社団法人」「プラットフォーム公益財団法人」という非常に明快な結論が得られる。というよりも、このようなプラットフォーム型になることが、第2次観光圏への移行の条件であったとみなすことができる。
 ここでは現存している観光圏の全てが、プラットフォームの形態で組織化できており、ワンストップの窓口を担っている箇所が法人化していることが解る。
(事例研究)海の京都観光圏、豊の国千年ロマン観光圏、浜名湖観光圏をおこなった。
【観光圏の持続可能モデル1「地元財源・アイデア事業モデル」】(1)地元財源モデル 総収入にしめる4つの項目の比率から分析する。(A)「事業費」(B)「会費」(C)「自治体負担金」(D)「国等の補助」(A)+(B)+(C)が地元財政基盤である。結論として、「採算性モデル」として、残っている2次観光圏は、国からの補助が少なく、地元主体であり、そうでない、国に頼っているところは退出している。
(2)アイデア事業モデル:自主財源拡大の鍵は、いかにアイデアのある事業を立案し、運営できるかにかかっており、これらの持続可能な観光圏は、この点が優れている。
【観光圏の持続可能モデル2「回遊空間形成モデル」】(1)(圏域のコンパクト性)回遊円分析により半径20kmが限界であることが判明。分類論では、現存する観光圏の殆どが半径20km以内である。アンケート結果では、半径20km以上の観光圏が、圏域が大きいと回答。退出理由として圏域が大きいと挙げた観光圏は全て半径20km以上である。
(2)(コア)中心に強力な吸引力のある観光資源の存在(天橋立、別府温泉・舘山寺等)。
(3)(周囲、サブ)その周りにも一定の観光資源が分布し、回遊できる交通手段が期待できる。その仕組みとしては、滞在促進地区というメイン誘客都市を核として、その近隣地域に観光客を誘導するプラスワントリップ回遊戦略である。
【観光圏の持続可能モデル3「組織モデル」】(1)組織のパターンとプロセスの共通モデル;1)任意団体の無責任体制から脱却し、責任のとれる法人格を有する観光地域づくりプラットフォームが事業体として形成され、過去の経営センスのなかった人材ではなく、プロの観光地域づくりマネージャーが地域内の着地型旅行商品の提供者と市場をつなぐ機能を担っている。2)マネジメント組織を立ち上げることができている。3)小さなバラバラな観光協会が、観光地域を小さな市町村単位で広報しても無名。広域地域単位で1元的に広報し受付したほうがはるかに有利である。したがって、ワンストップ窓口で統一的なコンシェルジュ機能がある。4)もともと観光圏になる前は、小さな観光協会がバラバラで林立。これをまとめる組織作りができている。(2)組織連携プロセス:1)トップダウン型の特徴=公益性が高い。2)ボトムアップ型の特徴=継続性が高い。

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