公設民営スーパーマーケット設置現象と持続可能性モデル化 —コンパクトシティ政策をふまえて—

要旨

【1】動機、目的:日本におけるスーパーは、①大手資本による主に郊外立地の「広域集客型大型店」と②食品スーパー各社やドラッグストアによる「小商圏型小型店」への二極化が加速している。さらに、少子高齢社会による人口減少や小売需要減少による過当競争が生じ、旧態依然とした店舗モデルの小売店は撤退もしくは廃業することとなる。特に中山間地域や離島部ではフードデザート問題への対応が喫緊の課題となっている。この課題に対する対応策として、2010年代に入り、地方都市の中山間地域や過疎地域や東日本大震災で被災した地域など、従来型のスーパーが成立しにくい地域において、行政が開発を主導し民間が事業運営を行う「公設民営方式」によるスーパーマーケット「公設民営スーパー」の新規出店が数多く見られるようになった。従来、公設民営方式を採用したスーパーの開設は、民業圧迫などの理由で難しかった。しかしながら、ここに来て出現してきた理由には、民間でも出店困難になってきたこと、行政に「生活インフラ」としての小売店の整備や買物難民対策など「介入」の必要性が認識されるようになったこと、自治体が民間事業者と連携し地域の課題解決を実現可能な「公設民営方式」を導入するために必要な法整備が行われたことが大きい。本研究では、これらの「公設民営スーパー」の出現現象の背景を明らかにするとともに、その持続可能条件をモデル化し、今後の課題を検討する。

【2】定義:公設民営スーパーの定義については、公設民営方式の定義に従い、「行政が「食品スーパーが出店可能な建物」の建設または取得を行い、施設完成後に民間事業者が施設利用料として賃料を負担するもの」である。

【3】分類論:現在までに全国で12件ある。立地条件による分類:「過疎地域型」と「被災地型」×建築条件による分類:「新築型」「既存物件取得(居抜き)型」で4分類になるが、過疎地型は居抜きが多い。被災地型は新築が多い。2015年以降、年に2〜3件設立されてきている。

【4】事例:この分類に基づき、3つの類型別々の代表として、過疎地域×新築型の「(福岡県)Good Smileはまゆう」、過疎地域×既存物件取得型の「(兵庫県)寺前楽座 まちの灯り」、被災地×既存物件取得型の「(福島県)さくらモールとみおか」を対象に関係者へのヒアリングを含む調査を実施した。

【5】イニシャルモデル(公設民営スキーム)(1)寺前楽座では、土地建物取得費用は財産区、改修費用は補助金+借入である。(2)Good Smileはまゆうでは、建築費用を15年で回収するスキームと各種補助金を使っている。初期費用は芦屋町が一時負担し、民間が15年返済である。当初5年間賃料減額する。(3)さくらモールとみおかでは、「使用許可制度」による店舗誘致と町による施設整備・3年間の賃料無償化をおこなっている。(4)公設民営スーパーのイニシャルモデルの重点は、「財産区」など別財源の存在があると有利であること。必要なハードルを引き下げる効果を持つ。

【6】ランニングモデル:公設民営スーパーが成立する条件として、食品スーパーの運営にノウハウを持つ事業者の存在が不可欠となる。ここでは、「全日食」などの特別仕入れ業者が、価格競争力の強化と経営資源の効率化の上で重要な役割をはたす。事例分析として兵庫県神河町の「寺前楽座まちの灯り」を取り上げた。公設民営スーパーのランニングモデル=「全日食」などの特別仕入れ業者の利用による価格競争力の強化と経営資源の効率化である。公設民営スーパーは小規模店舗のため、物流コストが高く仕入面でスケールメリットを構築することが困難であったが、特別な共同卸業者(全日食等)の力を借りて、スーパーの定番品は品揃えが可能となった。この結果、運営事業者の属性をもとに「大手資本型」、「全日食型」、「独自運営型」の3例に類型化することが可能である。

【7】地域型商品開発モデル:公設民営スーパーは、①経営上、定型的な加工品は全日食などの特別卸にたより、価格競争力の強化をはかるので、ますます差別化がむずかしいが、逆に、成功のためには、②地域型商品をいかに開発するかの努力が成功の鍵となり、地域密着や今後の観光需要狙いという本来の目的からもこれは欠かすことができない。③また地元産地とのネットワークの構築が鍵となる。寺前楽座の例は「福ちゃん弁当」、Good Smileはまゆうの例はグロサリー「自然の味そのまんま」、「ピエトロ」の冷凍食品、無添加石鹸「シャボン玉石けん」等、さくらモールとみおか(ヨークベニマル新富岡店)の例で弁当・惣菜コーナー「男の弁当」「居酒屋デリ」等がある。

【8】コミュニティとの連携モデル:公設民営スーパーは元来、地元の要望で構想され、地元の努力で実現した形態であるため、地元のソーシャル・キャピタルの醸成と連動し、その成果を地元に還元することは必然である。地元との連携は公設民営スーパーの原点ともいえる条件である。公設民営スーパーの空間モデル=コミュニティでの有効活用として、「Good Smileはまゆう」の例−駐車場スペースの開放、「さくらモールとみおか」の例−「オフィスフロア」、「イオン広野店」の例−各種サービス店舗やコミュニティスペースの導入がある。また、公設民営スーパーを核とした施設は被災地の早期復興に有望である。

【9】公設民営スーパーの立地・コンパクトシティモデル:公設民営スーパーは「商圏内人口」「将来性」に課題を持つ地域に有望。公設民営スーパーが成立する立地条件の共通点は、1)公共交通など最低限度の都市基盤が維持されているがフードデザートな地域に有望、2)空き店舗の有効活用に有望。3)既存民間事業者の食品スーパーと競合が生じない地域、4)公設民営スーパーがもたらすコンパクトシティへの貢献。

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