景観規制関連法とまちづくりの相互作用 —大阪らしい景観と4つの地域—

要旨

【1】日本が景観に意識をもち行政が動き出したのが最近になってからである。したがい「景観法」が2004年に施行されるが、若い法律である。本来景観法は、景観法施行地区においても、現在の状況で、「日本の伝統的歴史景観」が最も良い景観ということが常識となっている。「日本の伝統的歴史景観」とは、①落ち着いた色の、②近世・明治期までの、日本の伝統的な建築物等で構成され、③広告は規制する、というものが主流である。ところが、大阪の例だけ、「竹内街道」を除けば、特にこの日本の主流の景観イメージと大きく異なる例外的景観の代表である。「御堂筋」は近代・現代、「水都」は水辺、「道頓堀」は商業という形で、中でも「道頓堀」は明るい色彩と、広告そのものが規制の対象でなく、逆に景観の主役になっているという点で、個性型の最たるものとなっている。そこで、本論文では、どうしてこのような個性型の景観が「景観法」のもとでうまれたのか?この大阪独特の景観は「景観法」とどのような関係をもつのか、その施行経緯と、その結果形成されている現在の景観の特徴を分析し、モデル化をおこなった。

【2】景観法の定義は「国民生活の向上および国民経済、地域社会の健全な発展に寄与するため、都市や農山漁村等における良好な景観の形成を促進すること」を目的として制定された法律である。基礎自治体が「景観整備団体」となり、「景観計画」、マスタープラン、条例などを定める。景観計画は「景観地区」を定める。それにより、「景観重要建造物」「景観重要樹木」「景観重要公共施設」などを定め保全する。現場の実働部隊として「景観整備機構」をつくる。他の重要な行政計画と矛盾してはならないことの規定が続く。また「規制」「調和」「保全」を企図した内容になっている。

【3】「全国47都道府県の景観を活かしたまちづくりと効果」のデータで、現在その地域でどのような景観づくりをおこなっているかの結果を知ることができ、日本の優れた景観として、「景観を活かしたまちづくりと効果」が認められているもののうち、約7割は、「日本の伝統的歴史景観」である。

【4】事例では、「御堂筋」「道頓堀」「北浜テラス」「竹内街道」を調査した。

【5】「景観形成の相互作用モデル(規制と市場)」 (1)市場と行政のパワーバランスとしては、「大阪では市場、つまり、民が勝っているのではないか」という仮説が行政プロセスでも検証できる。3つのエポックメーキングな時期があることを明らかにした。(第1のエポックメーキング)=1987(S62)年「屋外広告物審議会ガイドプラン」が9地区で策定されたが、道頓堀だけ規制緩和措置。(第2のエポックメーキング)=2004(H16)年(国)景観法+2006(H18)年大阪市景観計画施行により、景観計画と屋外広告物条例と一体的に運用することができるようになる。(第3のエポックメーキング)=2017(H29)年国の景観法改正により厳しくできる「重点届出区域制度」が創設され、ガイドプラン廃止となった全8地区は実質の厳しい屋外広告物規制(重点届出地区)にかわるが、道頓堀だけガイドプランで緩いまま残る。これから大阪のモデル=「まちなみがあるところに規制を合わせる(民・市場優位)」「一律の規制だと地域性がなくて地域独特のまちなみは生まれない(個性主義)」がわかる。(2)景観法とまちづくりの相互作用のモデル化をした。景観規制はまちづくりの誘導者なのか追随者なのか?について、景観は、規制(行政)と市場(民)が互いに、フィードバックを繰り返すことで作られることがわかった。(A)御堂筋は、規制とまちづくりは同時関係、コンセプト優位型。(B)道頓堀は、市場優位・追認型。まちづくりの実態が先にあり、それに景観規制をあわせていた。(C)竹内街道は、元々国家の作った道路であり、規制がまちづくりを規定し継続。(D)北浜テラスは、地元の想いと政策により要求されて創り出された再生型。(3)景観と経済価値の関係に関する長期・短期概念をふまえたモデル化をした。1)一般論としては、規制により短期的利益は低下。2)景観が重要な地域では、規制がなく、良い景観が守れないと長期的利益の方が低下する。3)したがって、景観が重要な地域では、規制により良い景観が守られると長期的利益が短期的利益を上回る場合がある。大阪・道頓堀の例が面白いのは、この「良い景観」の定義が、通常の地域では広告規制となるが、道頓堀だけ逆で広告そのものが良い景観なのである。

【6】「個性主義モデル」 景観法の景観計画は、各地域の特性に合わせて実施されるため、対象地域やそこに居住する人たちの個性を重視する法律でもある。そのため、大阪のような個性豊かな景観を生み出すことも可能となる。ここでは、民の意見として、各種委員会の意見も参考にし分析した。

【7】「景観の色彩モデル」 色彩に重点を置いた地区景観づくりとして、以下を明らかにした。(1)御堂筋=北から南に向かうにつれての色の変化が明確。柔らかく優しい色の御堂筋キタエリアから、南に向かうにつれて都会的でモダンなシャープな配色へと変化。(2)道頓堀=ダイナミックさを示す、興奮・活動的・行動的・躍動的な配色となっている。食欲をかきたてるエネルギッシュな色である。(3)北浜テラス=水・緑。沈静色、重量色といった効果が色の特徴としてあるが、見る者の気持ちを穏やかにし、心をリラックスさせてくれる。(4)竹内街道=和風や歴史を感じさせる「ナチュラル色・和風色」が多い。伝統的日本家屋の茶系色が多い。古く味わい深い・和風の懐かしい・古典的な様子を示し、昔ながらの風情を残している。

【8】「広告モデル」 特に商業地域・商店街に適切である。賑やかで楽しい、都市の魅力をつくり、明るい地域のブランドを作り出すことができることを示した。(1)道頓堀立体看板の火付け役となったのが大阪の地元企業であり、個人の創意工夫で生み出された景観であるところが大阪らしい。(2)他事例の検証=大分県豊後高田「昭和の町」屋外広告 昭和の景観をつくりだしているのが、看板である。看板は「レトロ風看板」と呼ばれるさび加工が施されており、古く見えるが新品でシャビーな塗装、エイジング加工の技術が用いられている。

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