クリエイティブ型ICT教育への構造転換の考察

要旨

日本は、現在、ICT産業が世界的に遅れをとっているが、それを改善しようとはかるICT教育の分野ではさらに遅れ、ランキング的にも世界の底辺にあるといってもよい。どのようにすればICT教育が成功するのか?の研究は急務である。本研究では、このICT教育を分類し、いくつもの成功と失敗の事例を分析する。そして、第一に、このような日本のICT教育の現状と問題点をさぐることを目的とし、第2に、事例分析の結果、ICT教育のもつ意外な可能性と、優れた将来性をも論じた。【1】まず、ICT教育を取り巻く状況を概観すると(1)国際的教育プロジェクト「P21」「ATC21S」は創造性を重視している(2)工業化社会からICTを基礎とする創造性社会へ(知識を与えるだけの教育に留まらない、自分で考える力を養成する教育が求められるようになったこと)(3)1996年の中教審は「21世紀教育のあり方」で「生きる力」を強調(4)2006年の中教審は「生きる力」の具体を示す「課題自体を発見したり、課題を解決したりする力」(5)2015年OECD調査「PISA2015」で、日本はICT教育で世界「最底辺の水準」と示される(6)2018年「小学校プログラミング教育の手引き(第一版)」で、物事には手順があって、手順を踏むことでスムーズに進行させ解決することができるという論理的な思考力が、これからのAI(人工知能)が発達する社会で生き抜くための普遍的な力であるとした。【2】ICT教育は教育の革命である。(1)答えを暗記する教育から、答えのない課題解決教育へ移行するため(藤岡1999、大島1999)。(2)日本の学校教育情報化の停滞は学校管理型(日本)と自由型(北欧)の差。(3)ブルームの「タキソノミー」によれば、ICT教育は、低次の「記憶」・「理解」の、知識量と記憶力を重視した工業化社会的教育から、高次の「創造」「評価」「分析」の教育へのパラダイムシフトである(4)豊福(2015)は、「学習の個性化」「学習の協働化」「学習の社会化」が進むとする。(5)日本の学校教育現場における古いICT教育観から脱却の必要性ある。(6)真に大切なことは、コンピュータが答えばかり教えてくれるものではなくて、ICTが自分の想像やアイデアを広げてくれる道具であると考えること。プログラミングを通じてモノを作り出す楽しさを感じることが重要(Gakken Tech Program)。【3】関西教育ICT展の分類をすると「ICT機器」「授業支援システム」「公務支援システム」「教育用ソフトコンテンツ」「特別支援教育」「セキュリティ対策」「eラーニング」「プログラミング教育」「デジタル教科書」というカテゴリーに沿って95社が出展。(1)「プログラミング教育」については、今一番注目を浴びているカテゴリーであり、先駆事例で、もともと教材会社の株式会社アーテック社がある。従来から展開していた知育玩具の「アーテックブロック」をベースとしたプログラミング教材の開発。レゴと違い、たった7種類から構成されており、レゴに比べて1/3〜1/4という価格的メリットがある。初等教育では、創造性の観点からブロック・ロボットの工作系とスクラッチに代表されるビジュアルプログラミング言語が最善、上級段階でコーディングも。(2)ハード調達形態については、1)学校供給型、2)私的調達型「BYODタイプ㈵」(Bring Your Own Device)、3)様式指定型「BYODタイプ㈼」:「SOID(School Owned Internet Device)」、4)ハイブリッド型「BYODタイプ㈽」がある。(3)★結論としては。ブロック工作やロボット教材に、Scratch「ビジュアル プログラミング」を組み合わせたものが最適。【4】(初等中等教育事例1)「広島大学附属中学校」「信州大学附属中学校」「静岡大学教育学部附属静岡中学校」の3例が優れる。ロボット大会がきっかけ。【5】(初等中等教育事例2)立命館小学校は開校時より、既にICT教育を行っており、「BYODタイプ㈼(SOID)」や教員研修など、生徒の自由を活かしたきめの細かいシステムで高い評価がある。【6】(初等中等教育事例3)「大阪府立佐野工科高等学校」。【7】(初等中等教育事例4)K市は、奈良県内でも比較的早くICT教育が行われてきた。ところが予算的な制約から、システムを代え失敗。【8】(モデル1)ICT教育の「ハードから創造性教育へ重点移行モデル」:誰もが幼少時より慣れ親しんだブロックは、プログラミング教育を始める上でこれほど適切な教材はなく、工夫次第で複雑なものを作れたり、自由な発想での使いかたが許されるものである点が、ブロック型教材とビジュアルプログミングを併用することは、最高のプログラミング教育であるといえる。神野(2017)は、日本の教育史上初めて、学習者が能動的に思考し学習をリードできるのが、プログラミング教育であるという。【9】(起業・高等教育事例1)「オリィ研究所」ICTが学校不適応行動から抜け出すきっかけとなり、世界的な成功を収めた事例。小中学校の3年間引きこもりと不登校を経験し、たまたま参加したロボットプログラミングの大会で初めて優勝したことから進路に目覚め、不登校を克服し、現在は世界的なロボット研究家の第一人者となった。【10】(起業・高等教育事例2)「フリースタイル」社会に馴染めない人材とICTが親和性を持つ事例。様々な不適応の若者たちを就労させ、ICTエンジニアとして自立させる設立以来12年間を黒字経営するという実力がある会社。「社会に馴染めない人材とICTの親和性」の例である。【11】(モデル2)ICT教育の「価値転換モデル」(不適応・弱者から優秀者への転換モデル、創造性を見出し、学校不適応問題も救う同時解決モデル)学校不適応行動の(学校に馴染めなかった)子の中で、ICTが一つのきっかけとなって学校不適応行動から脱却し、社会的な成功に繋がる例がかなりでてきた。これまでの「旧来型教育」と「ICT創造性教育」は、評価軸が変わるので、これまでの「旧来型教育」では不適応だった子供(【図11−2】価値転換図のB、C)でも、新しい「ICT創造性教育」では優秀な子供が相当救われる(【図11−2】価値転換図のC)。このモデルは、「創造性」の獲得というICT教育の方向性と、部分的かもしれないが学校不適応行動の解消という二つの問題を解決する同時解決モデルである。吉藤氏の経歴からのモデル化は、1)独自の学習観=>2)メンターの存在=>3)目標の存在=>4)自己実現ツールとしてのICT=>5)社会からの認知(評価、受賞)による自信の創出の5ステップが重要。【12】(モデル3)ICT教育を成功させる「リーダーモデル」:真のICT教育の推進には、「ファシリテーション主体」の教育現場のリーダーと、組織を率いるリーダーの双方の高い意識が必要なのである。また、外部人材がメンターとなることは高い評価がある。
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