市民ボランティア組織論からみる歴史仮装イベントのサスティナブルな運営と地域づくりにおける効果

要旨

【1】本論では、近年各地で盛んになってきた地域活性化のための歴史仮装イベントの設立、運営メカニズム、歴史を分析し、類型化する。昨今日本全国で、歴史仮装イベントが多くおこなわれているが、歴史的には以下のような構造をもつ。(第㈵期)市民型「大阪モデル」2003年大阪、2007年上田における「ボランティア型」が嚆矢(こうし)である。これは筆者が主導してつくったものであり、そのきっかけは教育活動からであった。(第㈼期)公共事業型「名古屋モデル」2009年名古屋では行政が主導して、広報のための武将隊を組織化した。それは「ふるさと雇用再生特別基金」を利用し、アクターを採用するところに特徴がある。(第㈽期)2010年〜2011年には、「名古屋モデル」に追随する自治体が増加し「おもてなし隊」が全国各地で誕生した。(第㈿期)しかし2012年以降は、各地域のおもてなし隊が補助金の終了とともに解散などの衰退傾向がみられる。本論では、今後のサスティナブルな展開のためには、経営論、市民ボランティア組織論の立場から、市民型が優位であることを証明することにある。【2】「歴史仮装イベントとその分類」では、(1)主体から3分類論 Aタイプ:ボランティア市民団体型、Bタイプ:大学教育型、Cタイプ:公共事業・市町村プロモーション型(おもてなし隊タイプ)がある。(2)以上の3種類を大きく分類すると、「大阪モデル」と「名古屋モデル」にわかれる。(3)地域別分類は、全国で58件である。第1位が愛知県で9件、第2位が岐阜県で6件、第3位が兵庫県で5件、第4位が宮城県と長野県で4件、中部地方が25件で約半数、つぎが近畿地方で12件、つぎが東北地方で9件、である。(4)時系列の分類リストは、設立年をみると、最初の2003年の大阪から始まり、「ふるさと創生」の補助金のあった2010年の8件、2011年の12件の2年に集中している。【3】事例研究では「大阪モデル(Aタイプ:ボランティア市民団体型)」、「上田モデル(Aタイプ:ボランティア市民団体型とCタイプ:市町村プロモーション型の混在)」、「名古屋モデル(Cタイプ:市町村プロモーション型(おもてなし隊タイプ))、「大学教育モデル(Bタイプ:大学教育型)」、「参加型タイプ(特定非営利活動法人 国際武術文化連盟の事例)」を検討した。【4】「事業経営モデル」として市民型と公共事業型を比較する。(1)市民型の予算規模は数十万円、自治体の公共事業型では数千万の補助を要し、予算規模も1億をこえる。(2)市民型で効果があがるのであれば、公共事業型のイベントについて、「市民主体運営+公共が応援」型の方がよい。(3)特に公共事業型は、厚生労働省の「ふるさと雇用再生特別基金事業」を利用する事により、各地方自治体が資金的負担をする事なく安易に、おもてなし武将隊を結成する事が出来、2010年以降から公共事業型が林立する。しかし、2011年度を持ってこの事業が終了した為その後各地で武将隊の解散が相次ぐ事になる。結局、公共事業型は、補助金が終われば終わりのところが多く、本論文の目標であるサスティナブルな運営とはなりにくい。(4)さらにITを使って広く資金を集めるクラウドファンディング手法も重要といえる。【5】「市民型モデルのアンケート分析−モティベーション・ミッションモデル(非営利組織としての成功メカニズム)」としては、(1)大阪城甲冑隊のアンケート結果で、1)中年少なく、シニアと若者、2)女性の方が多い、3)入隊動機は、全体としては歴史や大阪への関心が多い、若手は人への関心、シニアは歴史やボランティアへの関心。(2)欲求段階論からの解釈、非営利組織論の中の心理学的考察により分類し分析した。1)マズローの5段階での意識レベルは第3段階以上に位置しており全員が第5段階の意識に近い状態であることが解る。2)アルダファのERG理論によるアンケート分析:アルダファのERG理論から分析すると、人間関係にまつわる関係欲求と、創造的、生産的でありたいという成長欲求が、ほとんどである。マズローの5段階仮説やアルダファのERG理論をつかうと、この団体の意識の高さが伺われる。(3)NPOがうまくいくモティベーション・ミッションモデル:注目すべき点は全員一致で「はい」と回答を得ているのは「甲冑隊の活動は楽しいですか?」と「大坂の陣の慰霊は必要ですか?」の2問であり、これから、なぜ、この歴史仮装をテーマにした特別なNPOが上手くいっているのか、それに関する筆者のモデルとして、非営利組織論的に、「モティベーションの持続のしかけ」と「慰霊・公共性などの精神的なミッションの定義」の設定がよかったという点をあげておきたい。【6】大学教育モデルに参加した学生のアンケートのテキスト分析により、「日本の歴史文化への関心」、「イベントへの驚き」、「周囲への感謝の気持ちや達成感」などの意識があり、その結果が、モティベーションや純粋な知的好奇心の満足(学習)に結びついていることがわかった。【7】成功している市民型の活動分析として、(1)2003年に始まった市民型モデル大阪城甲冑隊の活動展開は、2006年から大阪城の清掃・会議を開催し、2009年から(清掃活動以外の)一般イベントが急増し、震災のあった2011年には(清掃活動以外の)一般イベントだけで実に年間30回に達した。(2)現在でも(清掃活動以外の)一般イベントだけで平均年25回程度あり、月2回程度、清掃活動をいれると月3回で、ほとんど毎週イベント活動をおこなっている。しかもほとんど公的支援はないボランティアである。(3)それどころか企画提案活動も強力で、甲冑隊以前には大阪府下に歴史イベントは2件だけだったが、甲冑隊が大阪府下の歴史イベントのほとんどを企画・提案・参加という形でかかわり、現在大阪府下の歴史イベントは約25程度も開催されている、などの点がわかった。さらに、市民型モデルの地域活性化活動の効果を、「天王寺幸村博」「かしはら歴史祭り」で検討した。

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