地域活性化に資する「頭脳型参加イベント」の分類と成功メカニズム

要旨

【1】本研究では、近年、地域活性化で「頭脳型参加イベント」ブームとなっている「なぞ解き、宝探し、脱出・メイズ」等の「頭脳型参加イベント」の拡大と成功のメカニズムをさぐることを目的とする。2010年代に入り急速に拡大し、確認できるものだけで、日本全国で年600件程度あり、小さなものまでいれると、年1000件近いものがおこなわれている。これにより活性化する地元の都市数は相当なものになっているだけでなく、新しい専門の企業群=業界が形成されつつあり、ある代表例ラッシュジャパン社では、年間累計で100万人集客し約100地域でおこなわれたので、平均でも1地域で1万人集客の実績をもつ。【2】頭脳型参加ゲーム(脱出、宝探しなど)の全国的な紹介サイトの分析をおこなって、以下のような結果を得た。(1)2010年前後(2009~2011年)から急増。(2)主体分類は7種類「独立系」「学生系」「地域系」「メディア・書店系」「ホテル系」「商業系」「エンターテイメント大企業・集客施設系」。(3)独立系の代表が、「SCRAP」「ラッシュジャパン」「クロネコキューブ」「時解 eScape caf?」「エスポワール」「東京ボウズ」「NAZO×NAZO劇団」「超密室」「謎解きタウン」「ハテナボックス+ヤミネコ(SicksSphinks)+cafe Puzzlish」などで、大手企業の参入よりアイディア勝負の小会社が主流である。(4)内容分類は4分類、(脱出型←→宝探し型、謎解き)×(版権←→非版権)である。(5)タカラッシュの参加者アンケートでは、1)男女比は、女性の方がやや多い(6割程度)。「満足」94%。3)「家族」約6割、「カップル」約3割。4)20代~40代が中心、20代、30代、40代がそれぞれ3割程度。【3】事例分析として、1.脱出型(スクラップ)、2.ヒアリング1:アジトオブスクラップ常設施設(大阪)リアル脱出ゲーム、3.宝探し型(ラッシュジャパン)、4.ヒアリング2:ラッシュジャパン本社(東京)ヒアリング、5.ヒアリング3:宝探しゲーム参加(大阪)、6.謎解き(ナムコ)に調査研究をおこなった。【4】「経営モデル(1)-4Pとバリューチェーン分析」では【某頭脳型参加イベント企画会社のバリューチェーン分解モデル】は、①「企画」=>②「製作」(並行して、「紙」「映像」「演技」)=>③「準備・設営・運営」(並行して「コンテンツ制作」)=>④「消費者」となっている。【5】「経営モデル(2)-コスト戦略論(イベント学等の視点から)」では、(1)コスト評価で、①全体制作コスト(固定費用)は205万になり、②運営コスト(可変費用)は175万になる、費用関数は、N回開催のときの全体コスト=205+175Nとなる。(2)コスト戦略としての「疑似リアリティ」化モデル:「疑似リアルモデル」で、材料費等のコストを削減しつつ、「リアル感」を出すのがビジネス成功のカギ。(主催者側)本当のリアルを用意したらコストがかかる。よって「リアル」と名乗っていても、完全にリアルである必要ない。宝は、景品と引き換えのコードの発見だけで良い。(参加者側)また、今の参加者が本当のリアルを望んでいるわけでもない。(3)コンテンツ制作がまとまれば後は各会場で実施運営するだけなので、実質回数を重ねれば重ねるだけ収益は見込まれる結果となる。この限界費用が小さい点=すなわち規模経済が強く働く点はクリエイティブ産業としての特質である。地方であれソーシャルメディアを上手に使い宣伝効果を行えば格安なイベント会場で実施出来、コスト削減にも繋がり集客も得られる。好評を博せば追加公演を行えば良い。損益分岐点分析では、1.6回以上開催実施することで利益が見込まれ2会場以上開催すれば利益が出ることを示した。【6】「経営モデル(3)-リピーター=ファン層の形成と囲い込み戦略」では、1)リピーターが決定的に重要-マーケットの中心(この産業は、リピーターが大変多く、顧客の大部分を占める。ほとんどの例で2~3回以上経験者が中心になっていること。2)リピーターが1度形成されると、クライアント側のその地域・団体が再度、発注してくるという好循環=集客確実性が生じる。3)リピーター戦略のためにはITプロモーション、会員制度、ニューズレター(フリーペーパー)でファンとのきずなを形成することが重要。【7】「ブームの社会心理学的モデル-「リアル=バーチャル対応」モデル」では、「頭脳型参加イベント」が急速に拡大している社会心理的メカニズムとして、バーチャル-リアル対応があると推測した。このブームをささえる顧客層は、リアルで起こることの背後に、バーチャルな世界のブームがあり、それのリアル版を求めているのではないかということである。このことは、1)(スクラップの顧客意見例)=「登場人物になれる喜び」、マーケット(顧客)のプロフィールは、コンテンツ系ファン、「登場人物になれる喜び」、女性多い。「人に言いたくなるイベント」で広報、難解さと物語性。2)(タカラッシュのヒアリング例)=「発見の感動とワクワク」「冒険心をくすぐるイベント作り」など。3)(スクラップ創業者が推測する理由)=リアルへの渇望。4)(参加者が作る物語性)(日経トレンディーネット)、などから傍証できる。リアル=バーチャルの融合という点では、拡張現実感(AR)のブームとも関係すると。いま人は、完全なバーチャルでも完全なリアルでもない、疑似リアルを求めているのではないか。
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