日本におけるコミュニティFMの構造と市民化モデル

要旨

1970年代後半以降、欧米等の諸外国では、自由ラジオといった市民メディアが、草の根からの民主主義や市民社会の成熟に向けて一石を投じてきた。こうした市民メディアは、現在の情報政策やメディア経営のあり方を、市民と共生するものに変えようとする「パブリック・アクセス」などの「メディアの民主化」に向けた取り組みという点からも重要と考えられる。日本においては、こうした市民メディアとしての期待がかけられたものとして1992年に開始されたコミュニティFMがある。しかしながら、このコミュニティFMの設立経緯を振り返ると、我が国では、制度面からコミュニティの再生や防災放送等といった行政主導のトップダウン的なメディアとして出発したという色合いが強く、市民メディアとしての成熟は未知数なものであった。現在コミュニティFMは、全国で207局に達し、近畿では28局を数えるまでに至った。この制度開始後の15年の歴史を振り返り、分類論をおこなうと、設立当初は行政が肝いりの「第3セクター型」FM局が多くみられ、その後は阪神淡路大震災の影響もあって全体的に増加する中で、「純民間型」も序々に増えてきたといえる。さらに、2003年以降最近では、わずかであるが新しい事業形態である「NPO型」での開局や、その流れで開局をめざす動きも出てきていることが大きな特徴である。このように、我が国のコミュニティFM局では、諸外国に比べ行政主導型の局が多く、地域情報を主体とする市民参加型で真の意味の市民メディアとは必ずしもなっていなかったと言える。ところが最近、興味深い例が、いくつか見られるようになってきた。それは、主に第3セクター型FM局で一時は経営不振に陥りながらも、そこから見事に建て直した例である。積極的に市民参加を進め、それにより経営効率も高まり成功するようになったもので、FMひらかた(大阪府枚方市)とFMみっきぃ(兵庫県三木市)が代表例といえる。また、これからのコミュニティFMのプロトタイプと期待されているNPO型FM局では、市民自らの企画運営で成功している京都三条ラジオカフェ(京都市中央区)などの例もある。筆者は、このようなコミュニティFMの存立に向けた複雑な動きを分析する上で重要なものとして、「経営」「市民参加」「番組の質」「公共性」の4要素に注目した。実は、「市民参加」を安易におこなうと「番組の質」の低下を招き、「経営効率」が低下し、最終的には「公共性」も危なくなるおそれが出てくる。存立のための4要素は必ずしも安易に両立するものではなく複雑な関係にあるといえる。ところが、上記のように最近増加している成功例のパターンでは、こうした4者の相互作用がうまくいき、互いに高めあう相乗関係になっていることがわかった。「市民参加」を促すことによって「番組の質」と魅力を高め、「経営」の安定や「公共性」も向上するのである。このように「市民参加」と「経営」の両立に成功し、必ずしも市民中心ではなかったコミュニティFMが、最終的に地域住民のものとなり、真の意味での市民メディアになることをコミュニティFMの「市民化モデル」と呼ぶことができる。

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