オーガニック商店街-「安全・安心の食」による商店街活性化の川上戦略-

要旨

本研究は、商店街にもいろいろな問題点はあるが、商店街の活性化がまちづくり、地域文化の担い手であるという観点からその活性化策、方向性を探るものである。その際、食の安全という観点に注目した。流通革命以降、商店街は、大型スーパー、食品専門スーパーとの販売競争で中核機能たる「食の供給」で負け越してきた。ところが近年「食の安全」「顔の見える食品」等、食材、食品に対する消費者の意識が高まっており、この「安全の食」というテーマは、大型との競争で負け越してきた中核機能において、商店街活性化、復興のチャンスになるかもしれない、追い風になるのではないかという仮説をたてる。商店街が甦るには、「個性」や「体験」が重要であり、かつ、食は観光・集客でもブームになってきている、との先行研究がある。金丸弘美氏は、大量販売の物流に対し、きめ細やかな説明・対面販売が不可欠の「安全の食」の供給の場合は、量より質、無人化より対面販売へのシフトであり、食品の安全性、消費者の不安解消といった説明、説得が不可欠になってきたという。農水省などでも「有機JAS」「食品のトレーサビリティ」「自然肥料」などの制度や条件の整備をおこない食・農の安全は国民的テーマとなっている。安全の「食」をキーとした商店街復活の可能性は(1)大型店で扱い難いこと。有機JAS野菜や伝統野菜・地場産品は「高い」「生産量が不安定」「味の個性が強い」「規格(寸法、色、重量)が不揃い」「ロットが少量」などの点がある。(2)商店街で扱える可能性。顧客の要望として対面販売、説明販売(味、調理法)の価値や信頼感があるからである。そこで、調査研究を行った結果、 【「オーガニック商店街」の転換モデル(旧システムから新システムへ)】として、以下のような点が重要であることがわかった。【旧システム】では、生産者はとにかく「反当り収穫量の増大化」をめざし、農薬を多く使用し、地産地消でなく、大手流通にのせ、買い叩かれてきた。店舗は自前の「ブランド」戦略が使えず、大資本相手に価格競争を強いられる。消費者は、どこの販売店で買っても、値段の安さだけで購入店を選択する。【新システム】では、生産者は「地産地消」の理論を理解して遵守しようとする。つまり健康と、経済効果・地域振興・地域活性化の両立を目指す。「良いモノ」を作っている誇りと、「安全で旨いモノ」を食べてもらおうという願望を育成するためにも「川上戦略」の意義がある。店舗は「安全・安心」「有機JAS」「無農薬」「オーガニック」を武器に、価格競争を越えて、ブランド戦略に打って出られる。消費者も学習し、結局「少し高くても質」を選択するため、安全で身体に優しい商品が手にはいる。また、 【「オーガニック商店街」の3要素モデル】として、事例から、成功のためには以下の3要素が重要であることがわかった。(要素1)商店街の総力・知恵をあつめる「マネジメント力」:商店街や実行委員会の総意を結集する強いリーダーシップと、構成員の強い信頼関係(ソーシャル・キャピタル)を必要とする。(要素2)良い生産者と提携する「川上戦略」:「オーガニック商店街」成立のためには、なによりも新鮮で自然・安全な食材の確保が不可欠である。そのことは、自然に近く、農薬や化学肥料を極力さける食材を生産する強力な生産者の確保と強力な連携が不可欠ということである。すなわち「川上戦略」がなににも増して重要であり、必要不可欠である。(要素3)「シグナリング効果」を発揮するプロモーション戦略:最後は、商品の良さが消費者に支持されなければ成功しない。「オーガニック商店街」の遂行のためには、「やや高め」であっても「身体に良いメリット」を消費者にアピールする「シグナリング効果」を発揮することが何よりも大切である。このためには、消費者にうまく見せる店舗設計から広報活動が重要となる。いいかえると、このような「安全な食」戦略は可能である。それにおいて、最も重要なのが、良品の確保およびそれを作る生産者の確保=川上戦略である。しかしながら生産に手間がかかるためコスト高となる。そのため、川中(店舗)においては、その生産段階のコスト高を吸収する様なメニューなど経営上の工夫が求められる。さらに、それら工夫、品質、こだわりを消費者に知らせる情報発信、いわゆるシグナリング効果が不可欠である。このような広報戦略(大量のこだわり情報の発信と展開)の意味で川下も重要である。このような方向を新モデル「オーガニック商店街」モデルとして提案したい。
PDF