「高齢者福祉のまちづくり」におけるソーシャル・サポートの授受(SSR)について -「人生の現役」づくりとまちづくりと福祉の関係性-

要旨

高齢化社会の進展により「まちづくり」で「高齢者福祉」が重要となっている。一方、逆に 「高齢者福祉」においても、地域での生活が大切であることから「まちづくり」が重要にな ってきている。両者は互いに結びついており、これからの時代「広義の高齢者福祉のまちづ くり」が重要になってくるということになる。 しかし、「高齢者福祉のまちづくり」が成功といえる段階にいたるものは少ない。本研究では、 筆者の長年たずさわってきた大津の事例の経験をもとに、その他の高齢者を組み込んだまち づくり・地域づくりの例も多数分析した結果、成功しているプロジェクトにおいては、共通 にみられる特徴として、福祉では通例の「周囲からの高齢者への援助」にくわえて、「高齢者 から周囲へのはたらきかけ」が活発に存在し、相互的(reciprocical)になっている構造が重要 ではないかという仮説をたてた。後にそれは、社会福祉学や福祉政策論などで注目されだし た「ソーシャル・サポートの授受(SSR:Social Support Reciprocity)」という概念に近いこ とがわかった。もちろんこうした概念は、これまでまちづくり・地域政策でとりあげられた ことはない。そこで本研究は、今後まちづくりの中でこのようなソフトなシステムの設計が 重要になると考え、これまでほとんど研究されてこなかった「ソーシャル・サポートの授受 の理論《=「人から支援をうける(受)」だけでなく、「人に支援をする(授)」、その両方を もっている人が一番QOL(=生活の質)が高い》」などの視点から、高齢社会における持続 可能な「生きがい創出型まちづくり」が成功するメカニズムについての研究をおこない、S SRのある環境づくりがその鍵となっていることを示し、今後の方向性を論じようと試みる ものである。逆に社会福祉学での研究のほとんどは、いわゆる典型的な医療・介護や福祉の 現場に関するものであり、その際のソーシャル・サポートとは、介護などのサポートに他な らないので限定されている。意外にも、われわれにとって重要なまちの中の事例や、複雑な まちづくりの現場では研究がなされていない。 そこで本研究では、まちづくりや地域振興の分野でほとんど研究例がないが、ソーシャル・ サポートの授受(SSR)のメカニズムを組み込むことによって、高齢者福祉のまちづくり が成功するという仮説を、4事例で検証をおこなった。このことは逆に、これまで一部の人 間の間で証明されていた社会福祉分野におけるソーシャル・サポートの研究を、広くまちづ くりに拡大することにもなる。①滋賀県大津市の「町のオアシス」はボランティア団体で、 公的補助や自己資金で公益的な活動を行って介護予防的効果をあげ周辺に福祉拠点もできて いる。②長浜市の「プラチナプラザ」では、高齢者が自主的に運営する店舗がまちづくりに 大きな効果を持った。③栃木県茂木町の「民宿たばた」では、高齢者の生活の知恵やスキル を提供することで地域づくりに成功した。④山口県山口市と防府市の「夢のみずうみ村」で は、介護保険施設ではあるが利用者が自発的に活動し健康づくりに結び付いている。 このように、高齢者を組み込んだまちづくり・地域づくりで成功している4つの例を分析し た結果、(1)すべての事例で、ソーシャル・サポートの授受(SSR)のメカニズムを巧み に組み込んでおり、(2)高齢者への役割の付与により、人生の現役としての自己・過去肯定 感・主観的幸福感が生まれていることが明らかとなった。(3)その組み込み方としては、「地 域文化などを活かした高齢者独自の知恵の伝達」や「まちづくりへの参加・貢献意識」「自立 主義による介護の改善、生活の質の向上」などが鍵となっていることがわかった。したがっ て、今後、高齢者を組み込んだまちづくりを成功させるためには、こうした仕掛けでソーシ ャル・サポートの授受(SSR)を促すようにデザインすることが重要と考えられる。
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